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  • 執筆者の写真高岡洋詞

5年ぶりの新作『東京人』を聴きながら考えた、Jinmenusagiの “気になって仕方がない” 魅力

 ラッパーのJinmenusagiが32歳の誕生日(2023年11月4日)に新作『DONG JING REN(東京人)』をリリースしました。やや時間が経ってしまいましたが、彼にとって5年ぶりだというアルバムを聴いて、おっさんの戯言よろしく心に移りゆくよしなしごとを徒然に記してみます。



●大御所にはまだ若いけれど


 盟友Moment Joonは幾度となくJinmenusagiを「日本でいちばんラップがうまい」と評している。僕にはそう言い切れるほどの知識はないが、心地よいリズムとフロウ、耳にポンと飛び込むユーモラスな言葉選び、持ち前の声のよさとそのヴァリエーションが圧倒的に音楽的なのは素人にもわかる。極論、ひとことも日本語がわからなくても十分に楽しめるはずだ。次から次へと新たな才能が台頭するヒップホップ界においてもいまだにトップランナーのひとり……と、言われなくてもヘッズのみなさんはよくご存じだろう。


 20歳以上違うので個人的にはいまだに若いイメージがあるが、10年以上のキャリアを積み、客観的に見れば脂の乗り切った30代。彼に憧れてラップを始めた後輩も多いだろう。流行のビートも変わっている。これまでも常に最前線の音を乗りこなしてきた人だが、『東京人』の本質は《2020年台のトレンド超最前線に照準を合わせ、東京からシーンど真ん中を撃ち抜く…世界標準のアジアン・ドリル・アルバム》というプレスリリースの文言が完璧に言い表している。


 まず目を惹くのは、「GOAT (feat. Lunv Loyal)」や「Blue Benza (feat. SPADA)」、それにボーナストラック的に収められた「SAKURABA」のリミックス(ミュージックビデオは最初に発表された)で若手MCたちを客演に招いていること。彼らを “迎え撃つ” ジメサギの威風堂々たる姿は、ファン歴が長ければ長いほど感動的に映るはずだ。



 もうひとつのポイントは、全曲をセルフプロデュース(LEEYVNG名義)していること。彼はもともとそうだが、ラップするだけの人ではないのだ。本場UKやUSのドリルはギャングスタラップ的な内容を歌うことが多いが、「Opp Otaku」に顕著なように彼自身のバックグラウンドであるゲームやネットカルチャーの符牒をたっぷり(どちらにも詳しくない僕にもわかるぐらい明快に)盛り込んでいるところに “ネットラッパー” という出自への矜持が感じられる。



●終盤2曲の特別な流れ


 快調に飛ばす前半だけでも十分にかっこいいが、『東京人』というアルバムをいっそう特別にしているのは、終盤のジャージークラブ風の優しいビートに乗って歌われる「Crying Emoji」と「Anata Watashi」の2曲だと思う。前者では《段ボールにいっぱいの在庫/抱えた売れないラッパー》だったころから語り起こし、《音楽だけで食う 夢叶えどメンタル面/ウケるくらい 病んでく》と睡眠薬に頼った日々(ほんの数年前だろう)を悔恨まじりに振り返る。合間に現れる《大丈夫》という言葉が次の曲へのイントロになっている。



 ノスタルジックで楽しげなミュージックビデオが年末に公開された「Anata Watashi」では、「Crying Emoji」のネガティヴさを踏まえた上で《たった今 病んでいる》のは大前提、とばかりに《もういいよ昔話/続きを作る あなた、わたし》《今 考えることをやめて歩き出した》とポジティヴに態度を転換する。アルバムの最後にはボーナストラック的に「SAKURABA」のリミックスを収録しているが、ここから再び “今” につながって、To be continued...という首尾だ。



●アンビヴァレントな魅力


 僕が初めてジメサギに会ったのは10年ほど前。nel(当時はParanel)、daokoGOMESSなど、彼が当時所属していたLOW HIGH WHO? PRODUCTIONSのアーティストとよく仕事をしていたころだ。とても礼儀正しく、話し方は率直で聡明だけれど、同時に常に憂鬱と不機嫌と憤りを抱え、無遠慮に触ったら壊れてしまいそうな繊細さと、突発的に何かをしでかしかねない不穏さも感じた。


 そんな彼の魅力を僕がもっとも強く感じるのがライヴなのだが、ライヴは彼一流のアンビヴァレンスが自然に発揮される場なのかもしれない。よく覚えているのは2016年の4月に見た「芸人ラップ王座決定戦」のゲストライヴ。スキルなんて知るかとばかりの絶叫が鮮烈だった(会場の隅であっこゴリラに首を抱えられ、大きな体をかがめて話し込んでいた姿もよく覚えている)。


 しばらくご無沙汰していたが、昨年久しぶりに見たライヴはやっぱりすごかった。仲のいい電波少女と一緒のステージで、MCでは気のいいお兄さんなのだが、いざ歌うと豹変し、刃物のような鋭さを見せる。怖いぐらいだが、どうしても目が離せない。魅力というより吸引力に近い。どちらが本当のJinmenusagiなのかはわからない。たぶんどちらも本当の姿なのだろう。


 僕にとってのJinmenusagiは、もちろん好きだけれど、それ以上にどうしようもなく気になって仕方がない、つい見てしまう存在である。仕事の傾向もあって数年前ほどラップを熱心に聴かなくなってしまった僕だが、彼は今も気になるアーティストであり続けている。これからもきっと、ずっと。





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