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  • 執筆者の写真高岡洋詞

正直にまじめに歌う、令和・東京の喜怒哀楽── illiomoteのウラオモテなきブクロっ子純情

 池袋ネイティヴの “ハッピーポップユニット” illiomoteに2年ぶりにインタヴューしました。音楽もかっこいいけれど、僕は彼女たちの人柄と二人の仲のよさにも惹かれます。繊細で、正直で、まじめで、純粋で、だからこそ小さなことや大きなことにいつも傷つき怒っていて、時に絶望しそうになりながら、それでも前向きに楽しく生きようと支え合っている。そのひたむきさと友情に胸が熱くなるし、共感するし、憧れもします。インタヴュー後記をかねて、僕が二人について思うことをつらつらと書いてみます。


illiomote

●ハッピーポップ、それは人生


 僕がilliomoteを知ったのは2020年春。詳細は忘れたが、たぶんTwitterに流れてきた「In your 徒然」のMVがきっかけだったと思う。1st EP『SLEEP ASLEEP...。』をヴィレッジヴァンガード下北沢店で購入した記憶があったのだが、調べてみたらリリース当時は緊急事態宣言下で臨時休業中。どうやらヴィレヴァン限定販売のシングル「Sundayyyy / BLUE DIE YOUNG」と勘違いしていたようだ。


 幼稚園からの幼馴染である二人はMAIYAが1998年10月、YOCOは1999年1月生まれのいわゆるZ世代で、生まれも育ちも池袋という生粋のブクロっ子。僕は大学時代から6年ほど池袋のはずれに住んでいたことがあり、会う前から親近感を抱いていた。地元の人たちなら、あの街へのアンビヴァレントな愛着を共有できそう……と。


 キャッチフレーズは “ハッピーポップ”。「In your 徒然」や「Sundayyyy」や「What is??」はその言葉が喚起するキャピキャピしたイメージよりもけだるくアイロニカルで、かつてCharisma.comchelmicoを初めて聴いたときにも通じる感触が気に入った。違った意味で同じくらい惹かれたのが陰翳に富んだ「BLUE DIE YOUNG」で、「この人たちはただふざけてるんじゃなくて、なんらかの切実な感情を表と裏から表現してるんだろうな」となんとなく思い、興味を深めた。


「BLUE DIE YOUNG (Acoustic version)」Live at MAT


 初めてインタヴューしたのは翌2021年の1月、同年5月に更新を停止したFanplus Musicでのこと。そこで僕は《人生だね、ハッピーポップって》(MAIYA)という名言を聞くことになる。2nd EP『Teen Trip Into The Future』のプロモーションだったが、ちょっと気張っていた前作に比べてよりナチュラルな自分たちらしい作品を作れた、という充実感が二人の表情や話し方に漂っていた。終わった後に「1stのときに会ってたら全然違う話になってたかもな」と思ったものだ。



 ちょっと目を離すと(離していなくても)二人で話しはじめるのが面白くて、電気グルーヴGLAYCreepy Nuts、chelmicoなど、メンバー仲のいいグループにインタヴューしたときのことを思い出した。二人も僕もマネージャーも担当編集者も全員バラバラの場所からのリモート取材だったが、とても手応えがあり、僕のベストインタヴューファイルに残しておきたい仕事になった。


「きみにうたう」MV


 『Teen Trip Into The Future』では「きみにうたう」や「ブラナ#15」「夕霞団地」など、前作では抑えていた(とMAIYAが明言している)ブルージーな叙情性がグッと前面に出て、普段着の二人により近づけた感触があった。個人的には本作でilliomoteの “形” が出来たと感じている。


 3rd EP『side_effects+.』のときは機会がなかったが、OTOTOYのレヴュー連載にピックアップした。《正直さはilliomoteの美点である》《どんなに明るい曲にも憂鬱なニュアンスがあり、それでいて殺伐とはしないのがilliomoteの持ち味。きっと二人の人柄の表れなのだと思う》と書いたが、その認識は今も変わっていない。


 「A.O.U」では、MAIYAが組んだハウスっぽいビートに乗ってYOCOが《現実、終了のはず/約束、I wanna save you/連日、重症のはず/たぶん飛ぶ/急ぎで会おう/とりま会おう》と歌う。ギリギリの優しさ、ギリギリの人情。陰鬱で殺伐とした時代を懸命に生きる人が、なんとか絞り出した言葉である。YOCOの情感に富む歌声と歯切れのいい発語が美しい塩梅で両立できた曲だとも思う。


「A.O.U」Live at POWERHOUSE


●「聴けよ」じゃなくて「聴くよ」


 3月末に公開されたインタヴューは、僕にとっては2年ぶり2度めであり、ライヴに行ったことがないのでリアルでは初対面だった。4th EP『HMN</3』リリース当日の3月15日、渋谷にあるウルトラ・ヴァイヴのスタジオからの生配信の少し前。二人も僕もマネージャーも担当編集もかなりリラックスしていて、顔を見るなり雑談が始まった。笑いあり涙ありの90分で、MAIYAはTwitter、YOCOはInstagramのストーリーに書いてくれていたが、僕にも前回を上回る充実感があった。



 特に面白かったのが、MAIYAの《「俺らが時代切り開くから、みんなついて来いよ」みたいな人もいるじゃないですか。あの自信がうらやましい》という話を、YOCOが《(自分たちは)究極的には、まぁ、謙虚だよね》と受けて、その「謙虚」という言葉が心に引っかかっていた僕が、かなり取材が進んでから突然《わかった!》《illiomoteは「聴け!」じゃなくて「話そ」なんだな》と気づく流れ。3人で話し合いながらぼんやりとしたイメージにしっくりくる言葉を見つける過程の記録……と言ったら大げさかもしれないが、とにかく楽しくて貴重な体験だった。


 《(YOCOは)暗い暗い言ってますけど、ふたりでいるときなんかうるさくてしょうがないんですよ》(MAIYA)、《全然ダルい絡みとか好きだし、ふざけるし》(YOCO)という発言は象徴的だ。illiomoteの音楽性を雑に形容すると「シューゲイズ/ドリームポップとダンスミュージックのハイブリッド」で、曲によってその配合が変わるのだが、歌詞やメロディについても同じことが言えると思う。暗さも明るさも、重さも軽さも、悩みも遊びも、二人の感情の正直な発露なのであって、その振幅そのものがすなわち “ハッピーポップ” なのではないか。MAIYAが《人生だね、ハッピーポップって》と言い、《サウンドが今までとは変化したりするけど(中略)人間らしいでしょ??》と記していることには納得がいく。


 今の社会で主流とされる価値観に疑問を抱き、《生きんのむずい》と繰り返し、《もういっそ世界が終わっちゃえばいいと思うこともたくさんあります、正直》(YOCO)とヤケを起こしそうにもなりながら、それでも人生を楽しもうと《最後まで大事にしたいことや私なりのワクワク》を探す。苦渋と愉楽、絶望と希望のどちらかだけではなく両方を常に抱いて生きる二人の音色と歌声は、Z世代ばかりではなく多くの現代人の不安定な感情の振幅を的確に掬い取っていると言えるかもしれない。


「Mid」(Live studio session)


 YOCOは隔週更新のポッドキャスト『Wednesday YOCOの部屋』を配信している。ふざけ好きだったり好奇心旺盛だったりする側面が伝わる回も楽しいが、シリアスなテーマの回は語り口の率直さもあって心に刺さるものがある。『HMN</3』のテーマに関連して将来への不安を吐露した第18回にはとりわけ胸を締めつけられたし、第3回の戦争を知らない世代なりの真摯な戦争との向き合い方には感動してしまった。


 《わたしにとって、家族も友達も、仕事をしているチームのみんなも、いつも応援してくれてるみんなも大事です。そんな大事なみんなのまわりの人たちも大事です。日本だけじゃなくて、今まで関わってきたさまざまな国のみんな、さまざまな国をルーツに持つみんな、その家族も友達も全員、等しく大事で尊い命だと思います。だから争いたくないし、苦しんでほしくないし、戦争なんて絶対に起こるべきじゃないなって思います》


 素朴な実感に基づいた素直な、だからこそ力強い反戦メッセージだと思う。戦争反対なんて当たり前だが、賛成する人もここから始めてもらわないと話にならない。



 第1回の「“まじめだね” ってよく言われるけど、悪口だと思ってる」という話には切なくなった。本気じゃないのはわかっているが、彼女(だけではないはず)をそんな気分にさせた社会が憎い。まじめになる瞬間は誰にもあるのだから、互いに尊重し合えればいいのに、人は他人のまじめをバカにし、からかい、笑いものにせずにはいられない。僕自身、したこともされたこともあるが、今はしたことのほうがずっと恥ずかしい。


 前掲のFanplus Musicのインタヴューで、僕が《YOCOさんは理屈っぽくてMAIYAさんはフィーリング重視でタイプは対照的だけど、ふたりともとてもまじめな印象を受けます》と言ったら、二人はこんなやりとりで応えてくれた。


MAIYA でも不まじめにできなくないですか? 音楽って。(中略)不まじめにやってるのに超いっぱい曲できるし超かっこいいって人がいたら、マジでどうやってるのか教えてほしい。それが天才なのかな?

YOCO いや、そんなことないよ。天才って呼ばれる人にだって、誠実さは絶対にあると思う。

MAIYA そうだよね。そうだよ。音楽に対する誠実さは絶対にあるよね。


 その通り。まじめなのは絶対に長所だ。まじめであればあるほど、他人のまじめさを尊重できる。僕ももっとまじめにならなくては。二人のまっすぐさに頭が下がるばかりだ。


「Wake up soon」(Live studio session)



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