「意地悪かわいい」仲よし兄弟エンヤサン 音楽とお笑いの「刃」に魅せられて
愛知県岡崎市出身の兄弟デュオ、エンヤサンが僕は大好きなのである。弟Jr. TEAが紡ぎ出すアコースティックな音色を生かしたトラックはどこまでも心地よく、兄のY-クルーズ・エンヤの歌声は優しく繊細でおまけに色っぽい。パッと聴き、カフェや美容室でかかっていても違和感のないおしゃれポップスなのだが、よく聴けば歌詞はだいたい終始いじわるで助平。絶妙のバランスだ。「居場所のないやつらの集まり」を標榜するレーベル、術ノ穴(すべのあな)を象徴するアーティストであり「前向きでも後ろ向きでもない“横向き”サイドウェイズ・ポップ」というキャッチフレーズはお見事だが、すみっコぐらしだと思っていたらいつの間にかドセンターにいるかもしれないポテンシャルを秘めている。いい意味で信用ならない彼らの、ある意味で音楽以上にエッセンシャルなルーツが「お笑い」というのも、個人的にグッとくるポイントなのだ。
左:Y-クルーズ・エンヤ(ヴォーカル)、右:Jr. TEA(ギター、プログラミング)
●俺たちは誰よりも回り道してる
──僕がエンヤサンを知ったのはミックステープ『まさかサイドカーで来るなんて』(2012年)で、それ以前のことは知らないんですが、昔はラップしてたって言ってましたよね。今はYクルくんが歌って、TEAくんがトラックを作ってライヴではギターを弾いていますが、あのスタイルはいつごろから?
Yクル 気づいたらこうなってたというか。高校のときから遊び感覚でやってたんですよ。弟も昔はラップしてて。
TEA してたっていうか、うーん(笑)。録音するのが楽しかったんです。
Yクル トラックを作って二人でラップして遊んでました。そこにギターを入れようってなったときがエンヤサンの始まりだと思います。2008年かな。
──二人はいくつ違いですか?
Yクル 三つです。
──そうするとYクルくんが高校生でTEAくんが中学生くらいですね。
Yクル 2008年に最初のCDを作ったんですよ(『Enya-Song pt. 1』)。まだ歌が下手だったからラップがメインで、たまにギター入りの曲も入ってるぐらいの感じでした。2009年にもEP出したりしてるんですけど(『ミツコブラクダ』)、スタイルが全然固まってない状態で出したので、けっこう黒歴史的な(笑)。そこからだんだん歌ものになっていって……とにかく迷走し続けたのが、やっと最近固まってきたかなと。2010年に出したミニアルバム(『▽』)で、すごく未完成ではあるけど面白いものができたかなって初めて思いました。世には広まってないですけど。
『ミツコブラクダ』と『▽』のジャケット。僕も未聴です
──そのころ作った曲って今もライヴでやったりしてますか?
Yクル あるかな?
TEA 「チャンス食べごろ」とか、2〜3曲あるかも。
Yクル 兄弟で活動するのも、そうしたいって強く思ってたわけじゃなくて、結果的に一緒にやったやつが兄弟だったっていうほうが正解ですね。つかみにはなりますけど。
──それぞれ別の人と活動したこともある?
TEA 音楽活動って感じではないよね。
Yクル 遊びだね。ライヴとかもやってましたけど、ちょっとしたノリというか。
──当時は岡崎在住でしょう。ライヴ活動は地元と名古屋で?
Yクル 名古屋でもやってました。ヒップホップのイベントでギター入れて無理やりラインつないで音出して、リハもろくにできないし出演時間は10分みたいなところで、けっこうしばらくやってました。経験にはなったけど意味はない(笑)。
TEA 浮いてたね。
Yクル だって、クラブで低音がドンドン鳴ってるところでアコースティックとかいってもさ(笑)。あれはなかなかだったよね。悪い意味でもいい意味でも、ほんとに空気読めてなかった。
──当時のラップスタイルはどんな感じだったんですか?
Yクル ちょっとひどかったですね。サグまではいかないけど、やんちゃな感じ。知識がないからどんな路線で活動したらいいかもわかんないし、ヒップホップ、R&Bのシーンにしかコネもなかったんで、迷走し続けて……その期間がけっこう長かったよね。
TEA うん、長かった。
Yクル 2010年にミニアルバムを出したぐらいから、カフェとかでもやるようになったりして、ほんとに徐々に自分たちの場所を作れるようになっていった感じで。いま東京で、最初から路線が決まっていて、いいシーンができてる若い人たちを見ると、めちゃくちゃうらやましい反面「回り道してねえな」とは思います(笑)。僕らはいまだにやっとわかることばっかりっていうか、アーティストとしていちばん遠回りしてんじゃないかって思うぐらい迷走してるなと。音楽的にはずっとやりたいことをやってるんですけど、場所っていう意味ではヘタしたらまだ見つかってないぐらい。でも徐々に徐々にできてきて、レーベルもついてくれたりしてるんで。術ノ穴自体「居場所のない人の集まり」って言ってますけど、まさにそれですよ。
──TEAくんはギターを弾き始めたのとトラックを作り出したのとどっちが先ですか?
TEA ギターから入りました。小学校6年生のときに友達から1万円くらいで買った、ギターとアンプとストラップがセットになってるやつです。弾いてるとどうしても曲を作ってみたくなるんで、最初は鼻歌をラジカセに録音して、みたいなところから、どんどん本格化していきました。
Yクル こいつ学校に行ってなかったんで(笑)。
TEA 機材を買って、ちゃんとしたレコーダーを買って……っていう感じなんですけど、作曲というものを本格的に始めたのはヒップホップに興味を持ってからですね。サンプラーっていうものがヒップホップには要るのか、何だそれ?って。
Yクル BUDDHA BRANDきっかけぐらいだよね。
TEA サンプラーを買って、それでどうするんだ?って感じで、打ち込みを勉強したっていうか。勉強したって感覚もないんですけど。
Yクル 一日中作ってたよね。作曲かお笑いか、ぐらいの。
──お兄ちゃんは?
Yクル 一緒の部屋で二人でやってました。
TEA 僕がだんだんそれなりのものが作れるようになってくると、ラップ乗せようか、みたいな。
Yクル 彼女に曲を作ったりしてました(笑)。
TEA 曲を作ったら、じゃあライヴでやってみようか、と。
Yクル ほんと遊びで、1日1曲ぐらいのペースで作ってました。それから2008年に1枚目を出すまでくらいは、ミックスやマスタリングの意味もわからずやってたから、めちゃくちゃだったと思います。
2011年ごろのエンヤ兄弟
──ずっと兄弟仲はよかったんですか?
Yクル エロを解禁してからめっちゃ仲よくなりました。それまではテレビでエロいのが流れたらチャンネルを変えて気まずい空気が流れるみたいな感じだったんです。僕が17歳のときに、自分では借りれないから18歳以上の先輩についてってAVを借りたりしてたんですけど、中学生のこいつが「借りてきてくれないか」って頼んできて、「おっ、いいね!」ってなって(笑)。
TEA そこから壁がなくなっていきました。
Yクル 十代のときは二人で一緒にAV借りに行ったりしてたんですけど、あるときから明らかに趣味が変わり始めて。
TEA 真逆になりました。
Yクル だよね。SとMぐらい(笑)。
TEA 正直、僕はこいつが借りるのはタイトルの時点で「ないわ」って。
Yクル こっちはこっちでそうだし。女の子の趣味も違うんです。
TEA けっこう性格的に真逆なんですよ。だけど気の合うとこは合うからよくわかんない。凸と凹みたいな関係ですね。
──Yクルくんはアイドル好きじゃないですか。
Yクル 一応。アイドル全般が好きなわけじゃなくて、昔ながらのアイドルっぽいのが好きなんです。
──TEAくんは大人っぽいタイプが好きとか?
TEA 一応チェックはしてます。
TEA あと栗山千明とか。みんな髪型がパッツンですね(笑)。あと、ちょっと日本っぽくない顔立ち。
Yクル 体型もちょっとムッチリが好きだよね。僕はガリが好きなんで。
TEA おまえはほんとにベッタベタだよ。単純にきれいな子とか単純にかわいい子とか。
Yクル 面食いっすね、僕のほうが。
──女の子の好みも何も正反対の二人だけど、音楽に関しては?
TEA 僕には兄の影響は大きいです。自分からあんまり手を出さないタイプなんで。「これいいぜ」って言うのをいろいろ聴いて、その中でたまに好きなのが出てくるぐらい。
Yクル こいつの場合は、例えばhideだったらhideを聴き込むとか、bump of chickenを聴き込むとか、フィッシュマンズをずっと聴いてるとか、そういう感じだったんですよ。僕はいろんなジャンルのものを広く聴いていくんですけど。女の子と一緒です(笑)。
TEA iPodの中身で見るとわかりやすいですよ。僕はアーティストの数でいうとすっごい少ないんで。
Yクル 僕は逆にめっちゃ多くて、気分でどんどん変えていく。
──移り気なお兄ちゃんと一途な弟のコントラストですね。
Yクル 僕も恋愛は一途ですよ(笑)。
──お兄ちゃんが外に出ていろいろ情報を集めてきて、弟は家で待ってて、そこから好きなのを見つけたらひたすら聴き込んで研究する、みたいな。
TEA だから、いまはやりの音楽とかまったくわかんないです。
Yクル 対バンとかも、大物がいても気づかないんですよ。
──興味もない?
Yクル というか、ほんっとにフラットな目で、いいかどうかの判断ができるんです。
TEA だから「この人いい曲やってるなぁ。すごい売れっ子なんだろうな」って思った人が意外とそうでもなかったりするんですよ(笑)。興味がないこともないんですけど、あえてそうしてるところもありますね。影響を受けやすいタイプなんで、作る曲に出ちゃうんですよ。それが情けなくて。
Yクル たぶん俺みたいにめっちゃたくさん聴いてる人だったらいろんなものが混ざるからわかんなくなるけど、こいつはソースが少ない分、露骨に出ちゃうんだと思います。
──意外と聴いてるほうはわかんないんですけどね。本人がいちばん気にするんじゃないかな。
TEA 自分の中のやりやすさが違うんですよ。同じフレーズでも、何かに影響されて出たなって思うのと、それなしで出たなって思うのとで、違うじゃないですか。「かぶっちゃったな〜」とか思うと、やる気なくなっちゃうんで(笑)。
Yクル だから、そんなにインプットしてないのにようこういうのを作れるな、って驚くことはたまにあります。
TEA 何かのインタビューで、佐久間正英さんが曲を聴くよりも作るほうが好きだって言ってたんですけど、僕もそういう感じなんですよ。
──知り合いのミュージシャンも似たようなことを言ってました。自分が作る曲は自分がいちばん聴きたい曲なのだから、ひとの曲を聴くよりそれがいいって。
Yクル 聴きたい曲かな? 作ってるのって。
TEA 僕のなかではエンヤサンっていうアウトプットに合わせてだいぶ狭めているつもりです。本当はもっといろいろやりたいんで。だからいつかひとりでCDを作りたい。別に売らなくていいし、タダでも何でもいいんですけど、たぶんめちゃくちゃなものになると思います(笑)。
セット図を渡すときは「B'zと同じ立ち位置で」と指示している
●居場所がないから東京に出よう
──話を戻しますが、術ノ穴からCDを出すことになったきっかけは何だったんですか?
Yクル 術ノ穴のコンピ(『Hello!!! vol. 3』2011年)にノリでソロとエンヤサンの楽曲を両方送ったらソロのほうが採用されたんです。で、その次のコンピ(『Hello!!! vol. 4』2012年)に今度はエンヤサンを入れてくれて、それでもう完全に僕らを認識して、フリー配信したアコースティックアルバム『まさかサイドカーで来るなんて』を聴いて反応してくれたんです。当時、地元でレギュラーのイベントをやってたんですけど、そこにFragmentを呼んで、初めてちゃんと会っていろいろ話して、「実は来月か再来月くらいに関東に行きます」って言ったら、話が早くて「じゃあうちから出そうよ」みたいな。何の頼りもなく上京するつもりだったんで、ありがたかったです。
──タイミングがよかったんですね。上京することは二人で決めていた?
Yクル 地元でできることがなくなったんです。いかんせん外に出て友達や仲間を作るっていうことが苦手で(笑)、これはもう出て行くしかないなって。そのとき名古屋も考えたんですけど、居場所ねえよな、だったら東京に行ったほうが早いな、って思って出てきたら、こっちでもまあまあ居場所ねえなってなって、いまに至る感じです。
──東京で二人で暮らすということになると、家賃の問題とかもあるし生活費を稼がなきゃいけないじゃないですか。けっこうな決断だったと思うんですけどね。
Yクル こうするしかなかったっていう感じだよね。
TEA そうだね。僕はニートでしたから。半ひきこもり。そこからの脱出も考えないといけなかったんで(笑)。かといって東京に引っ越したからといってすぐに抜け出せたわけでもないんですけど。
Yクル そうね。1〜2年は。
──上京して何年ですか?
Yクル 3年です。
──術ノ穴から『新宿駅出れない』を出したのは?
Yクル 2014年4月です。その前年に出てきたんですけど、1年間はまだいろいろ練ってる段階でした。よくも悪くも音楽が環境に左右されるっていうか、2013年はあんまり楽しくなかったんですよ。地元のほうが全然いいみたいな。その気分に流されて、まじめになって型にはまっちゃってたかなって思います。実質1枚目で満を持しすぎちゃったっていうか。いいんですけどね。
TEA 僕は一所懸命やったので、はい(笑)。
術ノ穴からの1st『新宿駅出れない』ジャケット
──僕もいいアルバムだと思います。初めて会ったのが2014年の「Shimokitazawa SOUND CRUISING 2014」(5月31日)のときでしたっけ。
Yクル いや、恵比寿のBaticaで三回転とひとひねりのライヴのときです(4月14日)。『新宿駅』を出した直後くらい。
──あ、そうだった。あのときTEAくんがかぶっていた超個性的な帽子をよく覚えてます。
Yクル あれ僕が買ったんです(笑)。帽子はほとんど僕ですね。
TEA ファッションにまったく興味がないんで。
Yクル 僕が買ったのを貸したり、こいつに似合いそうなのを買ってプレゼントしたりして。
──ほんと仲いいなぁ!
Yクル プレゼントっていうか、俺よりこいつのほうが似合うなって思ったら譲る感じですかね。
──だいたい男兄弟で一緒に住んでケンカしないってのが珍しいと思いますよ。
Yクル メシとかけっこう一緒に食いますよ。僕に彼女がいるとき以外は(笑)。
──『新宿駅』の評判はどうでした?
Yクル あんまり反応なかったですね。
──その後フリーでも出してるじゃないですか(『寄せて上げてLP』2014年11月)。
Yクル そうですね。ちょっと宙ぶらりん感のある曲を集めて。
TEA 僕的にはストックをなしにしたいから出したって感じです(笑)。
Yクル ストックがあると、次のリリースに入れようかなって迷いも生まれるし、一回リセットする意味でも、フリーであげちゃおうと。でもちゃんとマスタリングもしてますし、他の曲と同じように作ったものだから、迷いはありましたけど、思い切って。
『寄せて上げてLP』ジャケット
──そして昨年12月に『ドアノブ』を出したわけですけど、その前の「ササクレフェスティバル」(11月14日)で会ったときにYクルくんが満面の笑顔で「高岡さん、すげえいいの作っちゃいましたよ! 自信作です!」って言ってましたよね。
Yクル いいものができたと思います。
──聴いたら実際よかったし、僕も『CDジャーナル』のレビューで絶賛しましたけど、みなさんの反応はどうでした?
Yクル 「エンヤサン売れるんじゃない?」みたいなことを言ってくれる人はちょいちょいいましたけど……どうなんすかね。例えば「もっかいHOO feat. BIKKE」は聴いたことある、とか、1曲だけ知ってるっていう人が多くて、アルバム単位で聴いてくれてる人がどれくらいいるかっていうと、ファン獲得まではいけてないのかなと。ちょっと特殊な売り方(店舗限定販売)をした結果、配信がいちばん売れてるらしいです。いいものを作ったとは思ってるんですけどね。
TEA アルバムを出したことでマイナスにはなってないです。
Yクル 方向性は間違ってないもんね。
『ドアノブ』には名曲満載!
──例えばライヴの動員が増えたりとかは?
Yクル ライヴはそもそも回数をそんなにしてないんで。要所要所で自分で企画してやるほうが最近は楽しいんですよね。
──1回自主イベントにもお邪魔しましたけど(4月21日「エンヤサン『ドアノブ』Release Party!!! 」恵比寿Batica)、あれは二人のイメージ通りのイベントですか?
Yクル はい。けっこう面白かったと思います。
Yクル 僕らの企画じゃないとこういうメンツは集まらないよ、っていうイベントにしたかったし、そうなったと思うし、結果的にいい化学反応が起きたなって。プロの中に藍上ちゃんみたいな人が紛れ込むのが好きなんです(笑)。芸人のコントにスタッフが入ってくるのとか、あるじゃないですか。ああいうイメージですね。
──お笑い好きが影響してますね(笑)。
「もっかいHOO feat. BIKKE」MV
●『ドアノブ』で自信の土台ができた
──二人のバックボーンを作ったお笑いの話も少ししたいんですが、ダウンタウンが神だそうですね。二人の世代からするとちょっと上じゃないですか?
TEA そうですね。モロ世代ではないです。
Yクル 僕は小学校5年生とかのときにはもう『ごっつええ感じ』は見てました。同級生は見てなかったけど。でも、やっぱりめちゃくちゃハマったきっかけは『ガキの使いやあらへんで!』ですね。そこから過去作を掘っていって、みたいな。こいつがちょっとハマりすぎちゃったんですけど(笑)。
──前にツイッターに家のビデオライブラリーの写真をアップしていましたよね。すごいなって思いました。
Yクル VHSを整理してね。1回でも録画を怠ると、自殺するんじゃないかって思うくらいの凹み方をしてました(笑)。
TEA なんであんなにハマったんだろう。思春期の感性が研ぎ澄まされてる時期にドンと飛び込んできたんですよね。とにかく感動したんです、「お笑いってすごい!」って。
Jr. TEAの宝物、『ガキ使』VHSコレクション
Yクル 怖さがあったじゃないですか、目とか。なのに笑えるっていう、ただそこにいるだけで怖さとか強さが象徴として表れる存在感みたいなものにすごく惹かれたんです。
──凄味みたいなもんですかね。
Yクル 突然発狂して暴れ回っちゃうとかって、誰だって頭にくることはあるけど、タガが外れるか外れないかの違いじゃないですか。僕の中でほんとにヤバい人って、ただ立ってるだけ、ただ歩いてるだけで怖かったり、すごかったりするんですよ。そういう意味で言うと、いまの音楽シーンって、みんなむやみにステージを下りたりするけど、下りないほうがいいのにって思ったりしますね。
──みんな下りたらハプニングじゃなくなっちゃいますからね。
Yクル ちょっとブームみたいになっちゃったじゃないですか。予定調和っぽくなって、面白さを感じなくなっちゃったっていうか。お客さんは楽しいんでしょうけど。
──『ガキ使』の最初の数回はヤバかったですね。大阪でやっていた漫才をそのまんま東京に持ってきて、言うまでもなく切れ味抜群だったし、横山やすしの悪口を言ったり、『探偵ナイトスクープ』おもんない、って言ったり、過激でした。
TEA めちゃくちゃですね。
Yクル 刃(やいば)的な。
──なのにかわいげがあるんですよね。
Yクル 確かに。そこが不思議ですよね。でも今の有吉(弘行)とかもそんな感じですよね。
──憎たらしいけどかわいい。
Yクル そこな気がするな!
TEA それが才能じゃないか?
Yクル 俺らもこれからそれで……最近、やっとMCとかでも普通に自然に自分たちを出そうかなって思えるようになってきた気がします。そうしてないつもりはなかったんだけど、もっとめちゃくちゃでもいいかなとか思ってきちゃって。
──エンヤサンはもっと調子に乗っていいと思いますよ。「俺らめっちゃいいアルバム作りましたけど何か?」みたいな。
Yクル もう始まってますけどね、その感じは(笑)。
TEA そういうCDを増やしたいです。『ドアノブ』でやっと土台ができた感じがあるんで。自信の土台というか。これからはそれを増やしたい。これは売れていいだろって思えるものを。
Yクル ちょいちょい反応してくれる人がいても、やっぱりシーンで明らかにキテる感がないと、「俺はいいと思ったんだけど……」って不安になるんですよね、たぶん。だからガッツリはまるところまでいかなかったりするんですよ、きっと。だけど、いいなと思ってた気持ちみたいのはずっと残ってて、俺らがガンといったときに「俺、昔から好きだったんだよなぁ」って思うんですよ。だからそれはその人たちじゃなくて俺たちの責任なんですよね。ちゃんと俺たちが火がつけば安心して好きになってもらえるんです。
──火がつくきっかけってわかんないですからね。DOTAMAくんだって一気に売れっ子になったし。
Yクル DOTAMAくんも呂布カルマもすごいですよね。両方とも僕、ソロとエンヤサンでお世話になってるレーベルだし、年齢も近いし、そう思うと追い風なのかなって思う。勇気もらったよね。
TEA うん。すごいね、波に乗るというのは。
Yクル ああいうのを巻き起こすべくいまフルアルバムを作ってて、来年早々には出したいんですよ。ほんとはギリギリ年内に間に合わせたかったんですけど。しかもソロアルバムも作ってて。
──大変ですね!
Yクル これくらいせな気づかんですよ、みんな。「自信はあるんで、きっかけ待ちですね」みたいなこと言う人たまにいるけど、待ってたらあかんなと思うんです。こっちからきっかけ作って、仕掛ける気持ちが大事だと。ソロとエンヤサンのフルアルバムをこの短期間で作れれば、自信にもなるし。
●「癒される」「優しい」という感想がしっくりこない
──すごく基本的な質問で恐縮ですが、ソロとエンヤサンの線引きってどのへんでしているんですか?
Yクル えー、どこだろう……。
──二人で作ってるのがエンヤサン?
Yクル そうですね。だし、一般層に向けたエンヤサンと、よりフェチでマニア向けなのがソロっていう感覚です。でも最近はだいぶクロスオーヴァーしてきて、わりと同じくらいの温度感でできるようになってきてます。
──『ドアノブ』はそうとう変態だったと思いますけどね(笑)。
Yクル 『ドアノブ』ではエンヤサンにソロの要素を足したんです。逆にソロのほうにエンヤサンの要素を足した感覚のものが次は出せるんじゃないかと。ソロのほうもなんだかんだでこいつ(TEA)が1曲トラックやってくれてるんで。そういう意味ではどっちから入っても聴ける作品になるかな、2枚とも。前回のソロ(『しらくべくリゾート』2013年)はとことんマニアックな感じで作って、実際に気に入ってるんですけど、次のはかなり聴きやすいものになると思います。
──好きな女の子に聴かせられそうですか?
Yクル 完全にモテるっすね。すでに制作途中でモテ始めてるんで(笑)。
──もうひとつ超ベーシックな質問なんですが、エンヤサンの曲作りってどういう風にやっているんですか? まずTEAくんがトラックを作るところから始まる?
TEA 基本的にはそうです。聴いてもらって、いい歌が浮かぶのがあったら作ればいいし、気に入らなかったらそのまま置いとけって感じで。
──Yクルくんが気に入ったトラックにメロディと歌詞を乗せて……。
Yクル プリプロでこいつの審査が入るんです。
TEA うん。エンヤサンの曲は僕が気に入るか気に入らないかが大きいんですよ。
Yクル そこですね、差は。
TEA ソロは僕はまったく口を出さないで、ほんとに好きにやればいいって。
Yクル ソロはいろんな人のトラックで歌ってますしね。そこが違うかな。この二人のセックスを見てもらうか、俺がいろんな人とヤッてるのを見てもらうか、みたいな(笑)。「あぁ、こんな面もあるんだ」っていう発見がたぶんソロのほうであって。
──ソロとエンヤサンがクロスオーヴァーしてきてるっていうのは、TEAくんの気に入る幅が広がってるってことでもあるんですか?
TEA そうなのかなぁ……。ほぼ任せてるんで、自然にそうなってきたっていうか。昔より歌詞の幅は広がってきてると思います。
Yクル ちょっと毒っ気のある曲が増えてきた。昔はもっとふんわりした曲が中心だった気がする。
──「中の下」みたいな曲は昔はなかった?
Yクル なかったよね。
TEA うん。
Yクル ああいうのが普通になってきた。
TEA 前もNGにしてたわけじゃないのに、なぜか出てなかった側面ですね。
「頬つねったら」MVから
──ダウンタウン魂が徐々に解放されてきてるんですかね。
TEA もともと別にいい子ちゃんじゃなかったっていう(笑)。そこに気づいちゃったというか。
Yクル そうそう。なんかね、「癒される」とか「優しい」とかっていう評価や感想が全然しっくりこないんですよ(笑)。それを見るたびに「ちゃんと聴いてんのかな?」って思っちゃう。
──そういう側面も実際あると思いますよ。
Yクル もちろん声質とかメロディとか、あると思うんですけど、天邪鬼っていうか、ひねくれ根性もあるんですよ。『シン・ゴジラ』みんなほめてるから絶対ほめたくないみたいな(笑)。『ドアノブ』にも《優しい染みも癒しの染みもどこかに流そう》って詞があったりしますし。
──毒っ気があることと優しさがあることは別に矛盾しないと僕は思ってます。
Yクル ああ、なるほど。毒のある歌詞でも不思議とさらっと聴けるとか優しい印象を受けるとか言われたら、確かにうれしいですね。
──Yクルくんはすごく優しい声をしてるから、それをめいっぱいの悪意を持って利用してくれると面白いなと(笑)。
Yクル あー、それがほんっとにいまのシーンっていうか、シティポップ界隈に穴を開けられる武器だと思うんすよね。下ネタも毒も無理やりひねり出してるわけじゃないし、そっちのほうがむしろ本質に近いので。言うても次のアルバムも普通にいい曲ですし、毒もそんなにわかりやすくあるわけじゃない。「マザファッキンサマー」くらいか。
──すごい曲名。
TEA エンヤサンの夏ソングです(笑)。
Yクル 夏ソングって「夏サイコー!」って曲じゃないですか、だいたい。でも僕らは夏が苦手なんで。あと毎年ほんと夏っていいことないなって思ってて、満を持して作ったんですけど、この曲を作ったら楽しくなってきちゃったんですよ(笑)。
──『ドアノブ』はおしゃれポップス好きの人たちに勘違いしてもらえる要素がかなり詰まってたと思うんです。
Yクル そうっすね。むしろそれを狙ったジャケでもあったんですけど。
──狙ってたんだ(笑)。だからもうちょっと知名度が上がれば全然食い込めると思います。
Yクル そこが難しいんですけどね。あんまり奇を衒うのもイヤだし。なんだかんだで実力だと思うんですよ。評価されてないのも、ちゃんとできてないことがあるからだし。やっぱり「きっかけ待ち」みたいなこと言ってるやつらとは一緒にされたくない。ほんと嫌いなんですよ、ああいうの。売れてねえのをシーンとか客のせいにすんじゃねえ、おまえがいい曲できてねえんだ、っていうのがシンプルでいちばんいいですよ。だから僕らも「気づかれてない」とか、そういう思いはあるけど、なんだかんだで実力、っていうのが前提にあるほうがやりがいもある。もっといいもん作るしかねえって。
──ひとのせいにする余地がないくらい自信の持てるものを作るのが健康的ですよね。
Yクル ほんと、それが絶対にいちばん大事っすよ。ひとのせいとかしまくってますけど(笑)、いちばんの前提はそういうことです。
──口ではなんぼでも言えばいいと思うんです。ひとのせいにしてもいいし、悪口だって。ただ心までそれに侵されたくないですよね。自分がつらくなるから。
Yクル ちゃんといいもの作ってればレーベルも拾ってくれるし、見てくれる人も増えるし、口コミでも広まると思うんですよ。
TEA なんだろう。もったいないよね。待ってるからきっかけに乗れないんですよ。
Yクル ブームも行きすぎるとすぐに流れちゃうし、自分たち独自のものを作るのがいちばん大事だと思うし。とりあえずいまは「頬つねったら」のアナログっすね。これが売れてほしい。
──なぜいま7インチを出そうと思ったんですか?
Yクル 憧れがあったんです。アナログを出したいなって。そのタイミングで曲もできてたんで、レーベルと話して。
──念願のアナログ盤だったんですね。
Yクル ほんとは12インチがいいんですけど、すごくうれしいです。売れるかどうかは別ですけど。JETSETさんも乗ってくれたし。これまでも術ノ穴のアナログを切ったりしてくれてて関係があるから、未収録の新譜だし一回やってみますか、結果が出るかどうかは責任持てませんけど、って(笑)。
──MVも面白かったです。釣りしてるし、TEAくんが謎の神様になってるし。
Yクル 山の神なんですよ、あれ。
TEA 一応、衣装に「キリスト」って名前がついてたんで、神の衣装なんです(笑)。
Yクル 僕があの曲でイメージしたのが釣りなんです。歌詞の世界観とは全然関係ないんですけど。その釣りを神が見守ってるっていう(笑)。最初はもっとストーリー性のあるものだったんですけど、現場で撮影が始まったら「ちょっと無理あるな」ってことになって、「ちょっとシュールかもしれないけどノリでやろう」って。けっこう気に入ってます。基本的に「あれっ?」ってなる不思議なもののほうがとっかかりになるかなって思ってて。
──シュールなものは二人とも好きでしょ?
Yクル 好きです。アルバムにはスキットとかも入れたいですね。『一人ごっつ』とか『VISUALBUM』とか好きなんで。アルバムでは詞の世界にも矛盾があって、「頬つねったら」では“こっち見なくてもいい”って突き放してると思ったら、別の曲では“目をそらすんじゃない”って言ったりしてて、気分が短期間で揺れ動いてることがよくわかるんですよね。そういう精神状態で作ったので、あえて残すのが面白いかなって。つらかったんですよ、2016年上半期は。その揺れ動いた気持ちを閉じ込めて、ひとつの作品にすることで面白くなるかなって。
(2016年8月18日)
「頬つねったら」MV
[PROFILE]
えんやさん……兄のY-クルーズ・エンヤ(ヴォーカル)と弟のJr. TEA(ギター、トラックメイキング)からなる兄弟ユニット。 三河、名古屋を中心に活動していたが、2013年3月に拠点を東京に移す。以来、ライヴに音源発表にと元気に活動中。 フリーダウンロードで発表したアコースティックアルバム『まさかサイドカーで来るなんて』(2012年)が好評を博し、 術ノ穴から2014年4月に『新宿駅出れない』を発表。2015年12月には初めてのフルアルバム『ドアノブ』、9月にはアナログ7インチ「頬つねったら/もっかいHOO '15 feat. BIKKE(やけのはらREMIX)」をリリースした。「サイドウェイズ・ポップな2人組」のキャッチフレーズ通り、皮肉やユーモアを重んじた表現でユニークな魅力を発揮しつつ現在も成長中。
[RELEASE]
エンヤサン / 頬つねったら/もっかいHOO '15 feat. BIKKE(やけのはらREMIX)
2016/09/24発売 / Jet Set Records
収録曲:[A] 頬つねったら [B] もっかいHOO'15 feat. BIKKE(やけのはらREMIX)
「頬つねったら」はゆっくり歩くようなミディアムテンポの打ち込みビート、Jr. TEAの簡素だが哀愁漂うエレキギターの音色、Y-クルーズ・エンヤの浮遊するような切ない歌声と、エンヤサンの魅力を凝縮したような心地よいバラード。「もっかいHOO'15 feat. BIKKE」はメロディックな要素を強調したような手触りのリミックスで原曲より一層メロウな出来で、やけのはらとの相性のよさを証明。フィジカルは数量限定でJet Set Records(通販も)と術ノ穴Storeで販売。iTunes Storeではダウンロード版も購入できる。
[UPCOMING EVENTS]
Ring of Fire!!!
日時:10月25日(火)開場18:30・開演19:00
会場:下北沢Laguna
共演:OLDE WORLDE / airezias
料金:前売¥2500 / 当日¥3000(ドリンク代別)
チケット:ローソン/イープラス/Laguna店頭
お問い合わせ:下北沢Laguna 03-6903-4185
日時:10月29日(土)開場18:00
会場:名古屋・新栄spazio rita
共演:アイスコーヒー(猫町)/MZP a.k.a マジカル頭脳パワー/RealSlave(以上ライヴ)/nutsman/adobam/ITOYUYA/DJ兄弟船(以上DJ)
料金:前売¥2500 / 当日¥3000(ドリンク代込み)
お問い合わせ:spazio rita 052-256-7176
日時:11月19日(土)開場14:00
会場:渋谷WOMB LIVE
共演:tricot/FINAL FRASH/ゆるめるモ!/呂布カルマ/吉田凜音/シシヤマザキ/DALLJUB STEP CLUB/バクバクドキン/野崎りこん/City Your City/KMCほか多数
料金:学割¥2500(200枚限定) / 前売¥3500 / 当日¥4000